スピーチで味わう妙味~話し方で「あなたワールド」を

台風18号が強風をともなって足早にここ関東から去ってゆく。
昨夜遅くに降った怖いような雨はもはや遠い夢の中のようだ。
窓の向こうの葉影はまだまだ大きく揺れ動いているが、
日差しはとっくに強烈なほどこの部屋に差し込んでくる。

こわばった笑顔や心も同じように、嵐のように去ってゆく。
遠い日に見た、沈んだ眼や、小さく丸まっていた肩さえ
今にして思えば幻だったのかもしれない。
こんなことをスピーチコンテストの度に私は思う。

今回も台風が去った後の晴れやかな笑顔ばかりが
見事にそろったスピーチコンテストだった。

吹き荒れる感情を心の底に抱いたまま
どこにぶつけていいのか解らず
せっかくの優しさや、思いやりを
言葉や行動に出せぬまま
その顔や体の奥にひた隠しにしたまま
日々を暮らしている。

無理やり隠すからどうしても笑顔がこわばってしまう。
素直な表情が残念なほどまで表わすことができない

でも私共は無理に作れとは決して言わない。
自分の心の底に吹き荒れる感情が
どう吹いて、どこにぶつけたらいいのか
解った、気づいてくれた人は
言わずしても、やがて自らが自然な笑顔を
私どもに向けてくれるから。

それでいいと思っている。

いや、それこそが、その笑顔こそが、
話し方教室での集大成だと
私どもは思っている。

再三申し上げるが、うまくスピーチすることが
話上手では決してない。
ぽつぽつ話をされても、泣かされることがある。
スピーチされる人は、私を「泣かしてやろう」など
姑息な計算など鼻っから考えもしないはずだ。
ただ、自分の気持ちを包み隠さず話すことだけに必死なはずだ。

それでも、私の眼から予定外の涙がこぼれおちる。
ほろりと泣かされたり、たまらなく号泣したくなる時もある。
一体これは何なのだろう?

こんな方のスピーチは何年経っても忘れられないどころか、
その方の笑顔に、再びお会いしたいものだと
事あるごとに思い出す。

私はそんな人こそ本物のスピーチの達人だと心密かに思っている。
(こんなに大っぴらに話しているので、ちっとも密かではないが)

人の心を温かく震わせてくれる人は、「人生の達人だ」と
こちらも声を大にして言いたい。

今回もそんな心を震わせてくれる人たちに
出会えたスピーチコンテストだった。

詳しい総評はすでに個々に先生がされているので
私からは控えさせていただくが、まずもって
優勝されたEさんおめでとう。

人間関係で悩んでいらしたあなたは
話し方教室にいらしても、尚辞めようと思われた。
見透かしたかのように先生に「竜頭蛇尾にならないで」と
言われて通われたとの事。

(「かぎっかこ」は本人の言葉をそのまま引用。以下同様。)

よくぞ、がんばって通ってくださいました。
私もあなたと初めてお会いした時に
あなたがとても小さく見え、正直不安をおぼえました

人間関係に悩んでいたその心が
私には小さく見えたのだと、あなたのお話を
伺って合点がいきました。

「話し方は終わりのない学びだと思った」
人前で堂々と語ってくださった
あなたがとても大きく見えました。

E さん。もうあなたは大丈夫ですよ。
聞けば、懇親会の後、先生に「ありがとうございました」と
頭を下げられたとのこと。

嬉しいです。もうそれだけで十分です。
まさに蛇の脱皮のごとく、一皮どころか
幾重にも剥けて、成長されたそれこそが
蛇尾に終わらずして見せてくださった
あなたの本当の姿です。

素敵な姿、見せてくださってありがとう。

そして惜しくも優勝を逃したI さん。
でもあなたのスピーチは、優勝に匹敵するだけの
価値ある次点だった。

何より私を泣かせた。
涙に理屈や説明がいらないのと同じように
あなたのスピーチにはこねくり回した理屈や
長々とした説明を抜きにした
沸々と湧き上がった
温かな心情が語られていたから。

話し方を通して、「人は助け合って生きている」という
あなたがつけた主題そのまま、あなたは学んでくださった。

まずもってお礼が言いたい。
あなたはものすごいことを掴んでくださった。
ありがとう。

「人にお礼が言えるようになった」
会場からおーという叫びがあがり
「人に親切になった」
会場から割れんばかりの拍手が起こった。

「スピーチは通過点に過ぎず」
「人は助け合って生きている」
という大きな気づきに再び大きな拍手。

あなたが向ける笑顔が何よりも
あなたの変化を雄弁に語っていた。

初めてお会いしたときのあなたとはまるっきり別人になっていた。

回を重ねるごとに、あなたの周りに人が多くなっていたことを
あなた自身は気付かれていただろうか?

休み時間にあなたが仲間と楽しそうに談笑する姿を見て
私はそれだけで救われた気持になった。

この人は変われる。変わった。
そんな教室内で見せるささやかな変化の中でさえ
私どもは一喜一憂している。

そんなささやかな変化こそ、劇的な変化なのである。
I さん、ほんといい笑顔になったよ。

「たくさんの人とやりたい」再受講されるという
I さん。あなたのチャレンジ精神は尊い。

あなたのチャレンジ精神が、さらなるあなたの飛躍になることを
私は心から願う。

その尊さに仲間から惜しみない拍手が贈られた。

先生が、準優勝をぜひ彼に贈りたいと
思われたのも無理はない。
それほどまでに、あなたは変わられた。

堂々と胸を張って盾を受け取ってください。
おめでとう。I さん。
そしてこれからもがんばってください。

今回の課題スピーチも「おっ」と思わせる秀作がいくつかあったので
ここにご紹介したい。

先生はよく話し方に「哲学を持ってきて」と言われる。
哲学?なんてちんぷんかんぷんと思われるかもしれないが
私は自分でこんな解釈をしている。

第一段階として、とにかく事の状況説明より、感情を語る。
例えば何所そこ行ったじゃなくて、とにかく何所そこ行ってまずどう思ったか
思ったことに重点を置く。

第二段階としてなぜそう思ったかの何故に重きを置く。
要は理屈や説明ではなく心を語れということが
先生の言うすなわち「話の中に哲学を」なのだと思う。

そんな感情を素直に語ってくれた表現として
「わくわくしています」というのがあった。
話の構成や、内容はまだまだ未熟だったが
私はこの素直さを表現できる彼女は、
いい味だしているなと思った。

いい味とはすなわち「その人らしさ」ということだ。
「らしさ」を表現できたら私はしめたものだと思う。

感情を語ってくれた方でもう少し、惜しいと思った方もいた。

話し方を学んで「自分の中で変わった」というお話をされたのだが
この変わったとはどのように変わったのか
それも具体的なエピソードを一つでいいから絡めて話されると
グッと印象に残る話が出来上がってくる。

それこそ「あなたしか体験していない話」が出来上がる。

また「その人らしさ」が印象に残ったのは
卒業生のKさん。
職場にきた研修生との心温まるエピソードだったが
彼の話は、実に「彼らしさ」があふれるほのぼのとした
「含み」を持たせるスピーチだった。

この「含みを持たせる」というのもなかなか難しいが、
要は先生の言う「哲学」。
無駄な説明や、理屈はスピーチには時としてただうっとうしい存在に
なってしまう。

どこが無駄で、何が必要か。
このさじ加減を3分という
時間枠の中で分配し
しかも「らしさ」という
世界観すなわち「あなたワールド」を
表現する。

この妙味の味わいが解ったら話し方は楽しいんだろうな。
ああだから話し方って難しい。

最後に言葉を通して人として生きる上で
大切なことを語ってくださったスピーチを紹介したいと存じます。

話し方教室で、会議の練習をした際、
「人の意見を尊重する意見があり、この人はなんて大人なんだろうと思った。
思いやりあるある人は、言葉を伝えられるんだと思った」

ああこんなことを感じてくださる方がいるから
話し方教室っていいなって思っちゃうのよね。

そうそう、こんな「あなたワールド」を短歌を交えて表して
下さった方もいらした。

スピーチは正直まだまだだが、
キュートな人柄が表現されていたのと
恥ずかしいと言いながら、思い切ってそれこそ
先生の言葉を借りるなら「今話さず、いつ話す」とばかり
発表してくださった。
その勇気にありがとう。

そして今回、コンテストを盛り上げようと
重たい楽器を持って
わざわざ上野教室まで足を運んでくれた
横浜教室の卒業生たち。
素晴らしい演奏とその心意気に私は涙がこぼれた。

「あーあまた陽子先生泣かせちゃったよ」
「だめじゃん」
こんなこと言ってくれる心憎い連中がいるから
私はここまでやってこられたんだと思う。

ハロー話し方教室はこんな洒落たことを
なんの肩肘張らずに、それも人の為にひと肌も
二肌も脱いじゃうそんな人たちが集まってくるところです。

「あーあだから人っていいのよね」
そんなことをあらためて思った
秋の夜長です。

台風でまたも多くの被害が出た。
なかでも暗闇の中、倒木にぶつかって亡くなられたという
新聞配達の方の話は心が痛む。

「大変だから半分手伝ってやるよ」
そう言って、大雨の中、出て行ったという。
心からお悔やみを申し上げたい。

ここまで書いたら
すっかり夜も更けてきてまいりました。

今夜も長々お付き合いくださいまして
ありがとうございました。

それではまたお会いしましょう。
ごきげんよう。

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