素晴らしき証~人質事件の犠牲者に捧ぐ~

亡くなった父の好きな歌の一つに「カスバの女」という歌があった。
歌のさびの部分に「ここは地の果てアルジェリア」という歌詞がある。
幼いころ父が鼻歌交じりで歌うこの歌に子供ながら悲哀を感じ、
又、見知らぬ遠い砂漠の地にどこか憧れを感じながら聴き入ったものだった。

今回の人質事件でこの歌がまったく別な意味を持って
私の心の中に突き刺さってくる。
昨年、ラジオにリクエストして取り上げてもらったが
今なら涙なしではとても聴くことができない。

一昨年の震災時も、今まで聴いていた歌がまったく別の歌になってしまったように。

「故郷」、「故郷の廃家」、「青葉城恋歌」、「糸」、などは
とても最後まで歌いきることができない。
「港町ブルース」の「宮古、釜石、気仙沼」はそれまでは本当に
ただの地名でしかなかったのに、ただの港町でしかなかったのに
今こうして文字を打っているだけで涙が溢れてくる。

それと同じように「カスバの女」は私の中で
残念だが悲しいかな「別の歌」になってしまった。

「ここは地の果てアルジェリア」
今後このフレーズをどこかで耳にするたびにあの赤土の上に建てられた
巨大なプラントとともに、遠い異郷の地で志半ば、
無念にも命を散らされた方々を思うことになるだろう。

高い技術力、豊富な経験、勤勉な向上心、企業人としての誇り
それらすべてをもって、貴重であり、尊きものであり
資源の無い日本国故、危険を冒し、リスクを覚悟で、
私たちの豊かな暮らしのために、その身を灼熱の砂漠に捧げてくれた。
それこそ熱き情熱と高い志を持って。
まことに持って痛恨の極みであり、心より哀悼の意を表したい。

新聞で読んだが、遠隔地で単身赴任する駐在員の一番の困難は
言葉の壁でもなく、価値観の違いでもなく、危険でもなく
「孤独」だそうだ。

或る者は年老いた親を残し、
また或る者は妻や幼き子供と離れ
砂漠の月を眺めながら、1万2000キロ離れた故国に思いをはせ、
満点の星を見つめながら、己が決意をさらに強固に固めたのであろう。

その孤独に耐え、忍び、技術の乏しい国に
培ってきた能力と力のすべてを惜しげもなく
晒し、伝え、それを誇りとした彼らたち。
伝えたいものはそれこそ山のようにあり
正に伝えたものは、知識や、技術力だけではなかったはずだ。

礼儀正しさや、規律正しい勤勉さや、和をもって尊しとする
日本の価値観や、日本人の魂までもきっと伝えたに違いない。

助かった方々のお話の一つとして、あちらの国の人が
ターバンを顔に巻きつけ、体を匿って
逃がしてくれたという話を聞いた。

普段からきっと仲良く、助け合って仕事をしていたに違いない。
真面目に、思いやりをもって相手に接してきたに違いない。
無残で残虐な知らせばかりが、続く中でほっと心が温まる。

いかに普段のコミニュケーションが大切なのか
いかに相手を、人を温かく思う気持ちを常日頃から
忘れずに持つことが大事なのか痛切に感じる。

今朝のニュースでは献花台に花が絶えないという。
白い花束は彼らに思いを馳せるすべての人々の悲しみと
「新たなる誓い」の表れでもあると思う。
「あなた方の気持を、スピリットを大切に受け継ぎます」

今回の人質事件で亡くなった方々は重い課題と同時に
改めて大切なことをも教えてくださった。残して下さった。
それこそ生きた証。素晴らしき証。
ありがとうございます。
あなた方のことは決して忘れません。
長きに渡り、本当に御苦労様でございました。
どうぞ安らかにお眠りください。
合掌。

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